この数年間で、コロナ特例の雇用調整助成金を除いて、最も多く活用されているのが、キャリアアップ助成金の正社員コースではないでしょうか?
実際、私のところにご相談やお問い合わせが多いのがこの助成金で、皆さんの関心の高さがうかがえます。
そこでこの記事では、キャリアアップ助成金の正社員コースの受給条件などをわかりやすく説明していきたいと思います。
わかりやすく解説するために、この記事では、ハローワークが発行している助成金のパンフレットに使っているような「正規労働者」「非正規労働者」といった用語は使わず、一般的に使われている「正社員」「パートタイマー」といった言葉を使うなどの工夫をしています。
キャリアアップ助成金正社員化コースとは?
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、パートタイマーやアルバイトなど正社員以外の人(以下、「パート等」)を正社員に転換するなどの施策を実施した会社に支給される助成金です。
キャリアアップ助成金正社員化コース3つの種類
ひとくちに「キャリアアップ正社員化コース」といっても、次の3つの種類があります。
→最も多いパターン
2.有期契約のパート等を無期契約のパート等に転換する
→これはけっこう意外かも!?
3.無期契約のパート等を正社員に転換する
キャリアアップ助成金正社員化コースの受給額
キャリアアップ助成金正社員化コースの種類ごとの受給額をみていきます。なお、下記の受給額は、中小企業を対象としたもののため、大企業に該当する場合は、金額が異なります。
1.有期契約のパート等を正社員に転換
1人当たり57万円(72万円)
2.有期契約のパート等を無期契約のパート等に転換
1人当たり28万5,000円(36万円)
3.無期契約のパート等を正社員に転換
1人当たり28万5,000円(36万円)
すべて合わせて1年間に20人まで申請可能です。
()は、生産性要件に該当した場合に受給できる金額です。
生産性要件については、こちらの記事を参考にしてください。
「生産性要件とは?助成金のもらえる金額が増える!対象の助成金は?」
さらに、以下のいずれかに該当する場合は、受給金額が加算されます。
対象となる事項 | 該当する転換 | 加算額 |
派遣社員を自社で正社員として直接 雇った場合 |
1.有期→正社員 3.無期→正社員 |
1人:28万5,000円 (36万円) |
母子家庭の母等または父子家庭の父 を転換した場合 |
1.有期→正社員 | 1人:9万5,000円 (12万円) |
同上 | 2.有期→無期 3.無期→正社員 |
1人:4万7,500円 (6万円) |
若者雇用促進法に基づく認定事業主 が35歳未満の者を転換した場合 |
1.有期→正社員 | 1人:9万5,000円 (12万円) |
同上 | 2.有期→無期 3.無期→正社員 |
1人:4万7,500円 (6万円) |
勤務地限定正社員制度や、職務限定 正社員制度を新たに規定し、パート 等を転換または直接雇用した場合 |
1.有期→正社員 3.無期→正社員 |
1事業所:9万5,000円 (12万円) |
キャリアアップ助成金正社員化コースが受給できる従業員
キャリアアップ助成金正社員化コースの受給対象となる従業員
以下のいずれかに該当する従業員が、キャリアアップ助成金正社員化コースの対象となります。
1.支給対象となる事業主に通算して6ヶ月以上雇用されている有期契約のパート等 ただし、雇い入れから通算して3年以内 |
2.支給対象となる事業主に6ヶ月以上雇用されている無期契約のパート等 |
3.6ヶ月以上継続して同一の業務に従事している派遣労働者 ただし、派遣元の会社に雇われてから3年以内 |
4.支給対象となる事業主が実施した有期実習型訓練を受講し、それを修了したパート等 ただし、有期契約のパート等は雇い入れから通算3年以内 |
キャリアアップ助成金正社員化コースの受給対象にならない従業員
以下のいずれかに該当する従業員は、キャリアアップ助成金正社員コースの受給対象にはなりません。(小さな会社が特に注意すべきところに色をつけています。)
1.正社員として雇用することを約束して、採用されたパート等。 正社員募集の求人で採用したのにもかかわらず、一時的にパート等として 雇用することもいけません。採用時の求人票を確認されることもあります。 |
2.過去3年以内に、自社や経営者が同じ別会社、または資本的・経済的・ 組織的な関連性からみて密接な関係の会社に、正社員として雇われたことが ある者、外注関係にあった者または、取締役などの役員であった者 |
3.事業主または取締役の3親等以内の親族の者 |
4.就労継続支援A型の事業所における利用者。 |
5.支給申請日において、転換後の雇用形態が消滅している、 または離職している者。 離職してしまった場合は、その時点で助成金の申請ができなくなります。 |
6.支給申請日において、その後、正社員がパート等に、無期契約の パートが有期契約のパートに転換されることが予定されていること。 |
7.転換日から定年年齢に達する日までの期間が、1年未満である者。 |
8.自社または、密接な関係の会社において定年を迎えた者。 |
キャリアアップ助成金正社員化コースの受給条件
キャリアアップ助成金正社員化コースを受給するのには、以下の条件を満たす必要があります。
1.パート等を正社員または、無期契約のパートに転換する制度を 就業規則等に規定していること |
2.1.の就業規則等の規定にもとづいて、 以下のいずれかの転換をおこなったこと (1)有期契約のパートを正社員、または無期契約のパートに転換した (2)無期契約のパートを正社員に転換した |
3.転換後6ヶ月以上継続して雇用し、その間の賃金を支給したこと |
4.勤務地限定正社員、職務限定正社員または、 短時間正社員(限定社員)への転換の場合は、転換した日において、 転換したパート等のほかに、限定社員以外の正社員を雇用していたこと 通常の正社員が一人でもいないと条件を満たさない ということになります。 |
5.支給申請日に正社員化の制度を継続して運用していること |
6.転換前の基本給よりも5%以上昇給させること 他の手当を削るなどして、基本給を上げることはできません。 |
7.転換日前日から起算して6ヶ月前の日から 1年を経過する日までの間に、雇用保険被保険者を解雇等の 事業主側の都合により離職さていないこと 転換前6ヶ月と転換後6ヶ月の間と考えておくと良いでしょう。 |
8.転換日前日から起算して6ヶ月前の日から 1年を経過する日までの間に、 解雇等の事業主側の都合により離職した人数が、 転換した日における雇用保険被保険者数で割った割合が 6%を超えていないこと例:転換前6ヶ月と転換後6ヶ月の間の解雇1名、 転換日の雇用保険被保険者数10名の場合 1÷10=0.1 =10%なので助成金の対象外となります。 該当者がいるかどうかは、ハローワークで確認できます。 |
9.転換の対象となる労働者本人の同意に基づいて運用していること 無理やり転換させてはいけないということです。 |
10.転換した日以降について、 当該者を雇用保険の被保険者としてしていること |
11.正規雇用労働者または 無期雇用労働者に転換した日以降について、 当該者を社会保険の被保険者として適用させている事業主であること 社会保険の加入対象とならない場合は、加入の必要はありません。 |
12以降は、加算を受けるための条件です。 |
12.母子家庭の母等または父子家庭の父の転換に係る支給額の 適用を受ける場合は、当該転換日に母子家庭の母等または 父子家庭の父のパート等を転換した事業主であること 転換日において、母子家庭または父子家庭である必要があります。 |
13.若者雇用促進法に基づく認定事業主についての 35歳未満の者の転換に係る支給額の適用を受ける場合には、 転換日より前にその認定を受けていて、 当該転換日において35歳未満のパート等を転換すること また、支給申請日においても引き続き若者雇用促進法に基づく 認定事業主であること |
14.勤務地限定正社員制度または 職務限定正社員制度に係る支給額の適用を受ける場合には、 キャリアアップ計画書に記載されたキャリアアップ期間中に、 勤務地限定正社員制度または職務限定正社員制度を新たに規定し、 有期契約労働者等を当該雇用区分に転換した事業主であること |
15.生産性要件を満たした場合の支給額の適用を受ける場合には、 当該生産性要件を満たしていること |
キャリアアップ助成金正社員化コースの受給までの流れ
(厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」R.2.4.1より抜粋)
1.有期契約労働者の転換や直接雇用を実施する日までに「キャリアアップ計画」の作成・提出を行います
2.就業規則等に転換制度を規定し、就業規則を労働基準監督署に届け出ます
10人未満の事業所は労働基準監督署に届け出るかわりに、支給申請時に「就業規則の申立書」を添付することも可能です。
3.就業規則等の転換制度に規定した試験等を実施します
4.正社員や無期契約への転換します
転換後の雇用契約書や労働条件通知書を対象労働者に交付します。支給申請時に添付書類として必要となります。
基本給・諸手当の合計を5%以上上げる
(残業代や通勤手当、住宅手当などは除いて計算します。)
5.転換後6ヶ月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2ヶ月以内に支給申請します
賃金には時間外手当(残業代)も含まれますので、適正に時間外手当を支給していない場合は、助成金の受給ができません。
6.支給決定
支給決定まで半年以上かかることがあります。
キャリアアップ助成金正社員化コースに関するコロナウィルス特例
支給申請が間に合わない場合
やむを得ない理由があった場合は、コロナウィルスの影響がやんだあと、1ヶ月以内にその理由を記した書面を添付して申請することができます。
転換後6ヶ月経過しない間に対象の従業員がコロナウィルスの影響で休業した場合
原則、出勤日数が11日以上ない日は、1ヶ月としてカウントせず、11日以上出勤している月が6ヶ月になった時点で申請ができます。
ただし、休業手当を全額支払っている日や、有給休暇を取得した日は、出勤日としてカウントできます。
計画書が出せない
コロナウィルスの影響がやんだ後、7日以内にその理由を記した書面を添付して届け出ることができる。
まとめ
キャリアアップ助成金正社員化コースを実際に申請する際には、最寄りのハローワークや助成金センターで、実際に自社の状況を伝えながら事前に相談・確認することをオススメいたします。