フリーランスという働き方が増える中、フリーランスや個人事業主(以下、「フリーランス」と言います。)に、労働安全衛生法の適用が議論されています。
フリーランスと契約している会社(事業者)としては、もしこの法律がフリーランスに適用された場合、どのように影響するのか、そしてどのような対応が求められるのかを今から理解しておく必要があります。
そこで、この記事では、そのポイントと対策を解説していきます。
フリーランスと労働安全衛生法の関係
なぜフリーランスを労働安全衛生法の対象とするのか?
近年、多様な働き方が広がるなか、フリーランスとして働く人々の数が増加しています。
その一方で、フリーランスが業務中に事故に遭遇するケースも増えてきました。
これに対応するため、厚生労働省はフリーランスも労働安全衛生法の対象とする方針を示しました。
この変更の背景には、フリーランスが業務中にけがをしたり、事故に遭遇したりするリスクが増えてきたことが挙げられます。
従来、フリーランスは労働安全衛生法の対象外であったため、事故が発生した際の対応や保護が不十分でした。
この新しい方針により、フリーランスも従業員と同様の保護を受けることができるようになります。
以前、私の顧問先さまで、業務委託契約をしていたフリーランスの配送ドライバーさんが、業務中にケガをされたものの、フリーランスということで労災保険の対象外なりましたが、今後はこのようなケースでも労災の給付を受けられるようになるかもしれません。
労働安全衛生法とは何か: 基本的な概要
労働安全衛生法(安衛法)は、働く人々の安全と健康を守るための法律です。
この法律は、会社(事業主)に対して、労働者の安全と健康を確保するための義務を課したものです。
具体的には、労働者が業務中に事故や病気にならないようにするための安全対策や健康対策を講じること、労働環境を改善すること、労働者に安全衛生教育を行うことなどが義務付けられています。
※年1回(例外あり)の定期健康診断の受診も労働安全衛生法で定められているものです。
また、労働者が事故や病気になった場合の救済措置や、事業主の違反行為に対する罰則も定められています。
厚労省の安全衛生法に関する新しい方針とその背景
厚労省が示した新しい方針の内容
厚生労働省が示した新しい方針の内容によると、前述のとおり、フリーランスや個人事業主も、従業員と同様に、業務中の事故や健康被害から守られることとなります。
具体的には、会社はフリーランスの業務上の事故での死亡や重傷を防ぐための安全対策の実施が求められるようになります。
また、事故が発生した際の報告義務や、危険な場所への立ち入り禁止などの義務も設けられる予定です。
フリーランスが「死亡するか4日以上休業するけがをした場合」は、労働基準監督署に報告する義務を課す予定です。(これは、従業員の場合と同じ基準)
フリーランスの事故増加とその影響
近年、フリーランスとしての働き方が多様化し、その数も増加しています。
しかし、その一方で、フリーランスが業務中に遭遇する事故の件数も増加の一途をたどっています。
特に、業務上の移動中や作業中の事故が多く報告されており、これによる重傷や死亡事故も後を絶ちません。
これらの事故は、フリーランス自身の生計や家族への影響はもちろん、発注者や関連する会社にも大きな影響を及ぼしています。
事故の背景には、安全対策の不足や情報の不足、適切な教育の欠如などが指摘されています。
このような背景から、厚生労働省はフリーランスも労働安全衛生法の対象とする方針を打ち出し、彼らの安全を確保する取り組みを強化しています。
フリーランスにおける労働安全の重要性
労働中の事故リスクとフリーランス
フリーランスとして働く者たちには、従業員とは異なるリスクがあります。
多くのフリーランスは、自宅やカフェ、共同作業スペースなど、様々な場所で業務を行っています。
これにより、従業員とは異なる環境下での事故リスクが高まっています。例えば、外出先での移動中の交通事故、不慣れな場所での転倒や物の落下、また、長時間の作業による健康被害などが考えられます。
さらに、フリーランスは自ら安全対策を講じる必要があるものの、そのための情報や知識が不足している場合が多いです。
このような背景から、フリーランスが労働中の事故リスクを正しく認識し、適切な対策を講じることが非常に重要となっています。
会社(事業者)や発注者の役割と責任
フリーランスが労働安全衛生法の対象となった場合の会社の義務
フリーランスが労働安全衛生法の対象となった場合、会社には様々な義務が課せられます。
具体的には、従業員と同様に、フリーランスが業務中に事故や病気にならないようにするための安全対策や健康対策を実施すること、労働環境の改善や、安全衛生教育を提供することなどが義務付けられることになります。
また、事故が発生した場合の報告や、事故の原因を調査し再発防止策を講じることも求められます。会社や発注者は、これらの義務を遵守することで、フリーランスの安全と健康を守る責任を果たす必要があります。
フリーランスとの契約時の注意点
フリーランスとの契約を結ぶ際、会社や発注者はいくつかの重要な注意点を考慮する必要があります。
まず、労働安全衛生法の対象となる場合、会社や発注者はフリーランスの安全と健康を確保する責任を持ちます。
そのため、契約内容には安全対策や健康対策に関する項目を明確に盛り込むことが推奨されます。
また、業務内容や作業場所、使用する機材や道具に関する情報を十分に共有し、必要な安全教育や情報提供を行うことも大切です。
さらに、事故が発生した場合の対応策や報告義務、再発防止策に関する取り決めも契約に明記することで、双方の権利と義務を明確にすることができます。
これにより、フリーランスとの円滑な関係を築き、安全な業務遂行を実現することが期待されます。
業務委託契約の実態によるリスク
業務委託契約としてフリーランスと契約を結ぶ場合、その実態が雇用契約とみなされるリスクが存在します。
具体的には、業務の内容、報酬の支払い方法、業務の指示・監督の方法などが、実質的に雇用契約に該当する場合、法的に雇用契約とみなされる可能性があります。
このような場合、会社は労働基準法や労働安全衛生法などの労働法規の対象となり、従業員としての権利をフリーランスに保障する義務が発生します。
これには、最低賃金や割増賃金の支払い、労働時間の制限、休日の確保、労働災害の際の補償などが含まれます。
会社としては、このようなリスクを回避するために、契約内容や業務の実態を定期的に見直し、業務委託契約が雇用契約とみなされないような取り組みが必要です。
また、契約書の内容だけでなく、実際の業務の進行や関係性にも注意を払い、雇用契約の要件を満たさないようにすることが重要です。
会社としてのフリーランスへのサポートと安全対策
安全教育の提供とその重要性
会社としてフリーランスに業務を委託する際、安全教育の提供は非常に重要です。
フリーランスは従業員とは異なり、業務の進め方や安全対策を自ら判断することが多いため、事前の安全教育を受けることで事故リスクを大幅に減少させることができます。
会社は、業務内容や使用する機材・道具、作業場所などの特性に応じた安全教育を定期的に提供し、フリーランスが安全に業務を遂行できる環境を整える責任があります。
事故発生時のサポート体制の構築
フリーランスが業務中に事故を起こした場合、迅速かつ適切な対応が求められます。
会社としては、事故発生時のサポート体制を事前に構築しておくことが重要です。
具体的には、事故発生時の初動対応の手順や連絡体制を明確にし、フリーランスに周知しておくことが必要です。
また、医療機関との連携や、必要な場合の専門家の手配など、事故後のサポートも考慮することが大切です。
定期的な安全確認とフィードバックの実施
会社としてフリーランスとの関係を継続的に持つ場合、定期的な安全確認とフィードバックの提供は欠かせません。
業務の進行中や完了後に、安全対策の確認や業務の進行状況をチェックすることで、潜在的なリスクや問題点を早期に発見することができます。
また、フィードバックを通じてフリーランスの安全意識を高めるとともに、改善点や新しい安全対策の提案を行うことが可能となります。
このような取り組みを定期的に行うことで、会社とフリーランス双方の安全を確保し、より良い業務関係を築くことができます。
まとめ
フリーランスが労働安全衛生法の対象となる場合、会社としての責任は増大します。
特に、フリーランスとの関係性が雇用契約に近い場合、そのリスクはさらに高まります。
会社は、フリーランスの安全と健康を確保するための対策を講じるとともに、事故発生時のサポート体制を整える必要があります。
また、定期的な安全確認やフィードバックの提供、安全対策のための資材や情報の提供など、フリーランスをサポートするための取り組みが求められます。
これらの取り組みを通じて、会社とフリーランス双方の安全を確保し、より良い業務関係を築くことができます。