新規で社会保険の加入手続きについてのご相談をいただくときに、当然、社会保険料がいくらくらいになるのか?というご質問がつきものです。
その説明時に、標準報酬月額という言葉をはじめてきたという方、言葉自体はしっているけど、その意味や計算の仕方はわからないという方が、たくさんいらっしゃいます。
標準報酬月額は、各個人の社会保険料の計算を簡単にするために用いられている仕組みと言えます。
この記事では、標準報酬月額の計算や変更の仕方を理解してもらいやすいように、標準報酬月額の基礎からご説明していきます。
標準報酬月額とは
いま、標準報酬月額は、「各個人の社会保険料の計算を簡単にするために用いられている仕組み」とお伝えしましたが、社会保険料とは、
健康保険料+(※介護保険料)+厚生年金保険料の総称です。
※介護保険料は、40歳以上65歳未満の人のみ
それぞれの保険料は、
従業員ごとの毎月の給与×保険料率
で計算されます。
しかしこれだと、毎月給与の変動があったり、1円単位まで給与額がことなることも多々あるので、計算が煩雑になってしまいますよね?
そこで、従業員の給与を一定の幅で区切ってグループ分けしたのが標準報酬月額です。
21万以上23万円未満は、「22万円」のグループ
23万以上25万円未満は、「24万円」のグループ
といった感じです。
この「22万円」や「24万円」が標準報酬月額です。
標準報酬月額は1等級、2等級という数え方をします。
この標準報酬月額を使って健康保険や厚生年金保険などの計算を行ないます。
理論的にはこのような計算式になるのですが、実際には、この計算で求められた標準報酬月額ごとの保険料がまとめられた、「健康保険・厚生年金保険 保険料額表」を使えば、ひと目で社会保険料額がわかるようになっています。
全国健康保険協会HP都道府県毎の保険料額表
※健康保険は保険料率が都道府県ごとに異なるため、会社の所在地がある都道府県の保険料額表をつかってください。
標準報酬月額保険料額表の見方
2020年9月の兵庫県の保険料額表(一部抜粋)
給与が20万5千円の従業員(40歳)の社会保険料額はいくらか?
1.報酬月額195,000円以上210,000未満に該当。
※報酬月額というのは、従業員の給与の額だと思っておいてください。
2.標準報酬月額は200,000円
3.健康保険料は、40歳なので「介護保険第2号被保険者に該当する場合」を参照
折半額:11,930円
4.厚生年金保険料は、折半額18,300円
5.合計:健康保険料(介護保険料含む)11,930円+厚生年金保険料18,300円=30,230円が毎月給与から天引きされる社会保険料額
「全額」というのは、従業員負担分と会社負担分をたした金額です。
社会保険料は従業員と会社が折半して支払う仕組みとなっています。
以上が保険料額表を使った、社会保険料額の計算の仕方でした。
ここまでのご説明をお読みいただいて、
もし、残業代や出来高に応じた手当があるなどで、毎月給与が変動する場合は、毎月標準報酬月額がかわるかもしれないのでは?と思われたかもしれません。
標準報酬月額は毎月の給与変動によって変わるものではありません。
標準報酬月額の決め方にはルールがありますので、その決定の仕方をお伝えします。
標準報酬月額の計算仕方(決定の仕方)
標準報酬月額の決定の仕方には3つあります。
2.定時決定(算定基礎届)
3.随時改定(月額変更届)
標準報酬月額の資格取得時決定
原則として社員の入社時ですが、場合によっては、パートタイマーから正社員なった場合、あるいは勤務日数などが増えて、社会保険の加入対象になった場合などもあり得ます。
これらの場合は、今後支給するであろう見込みの給与額から、標準報酬月額を算定します。
見込みの給与額には、基本給や職務手当、精皆勤手当などの諸手当はもちろん、通勤手当や残業代、出来高による手当も含みます。
※現物で支給される通勤定期や食券、食事なども給与額に含みます。
資格取得届に見込みの給与額を記載し、日本年金機構に届け出ることによって、標準報酬月額が決定されます。
標準報酬月額の定時決定
定時決定よりも「算定基礎届」というほうが、一般的です。
毎年、4月、5月、6月に支給された給与の額を平均し、その平均額によって標準報酬月額を決定します。
年に一回の算定基礎届による標準報酬月額の見直しを行なうことで、実際に支給されている給与に即した社会保険料額が算出されます。
6月になると算定基礎届が日本年金機構から送付されてきます。
標準報酬月額の随時改定
随時改定よりも「月額変更届」というほうが、一般的です。
定時決定(算定基礎届)は年に一回だけですので、算定基礎届の時期以外に給与の大幅な増減があった場合は、社会保険料額の変更が行なえません。
そこで、給与の大幅な増減があった場合に、臨時的に社会保険料額の見直しを行なうのが、随時改定(月額変更届)です。
ただし、随時改定(月額変更届)を行うには、給与の増減によって、標準報酬月額が2等級以上変動するなどの一定の条件に該当する必要があります。
また、通常の随時改定(月額変更届)のほかに、育児休業などを終了した時に行える、「育児休業等終了時報酬月額変更届」というものもあります。
随時改定(月額変更届)についての詳細は、こちらの記事を参考にしください。
「標準報酬月額の変更(月額変更届)の仕組みや書き方を簡単に解説」
以上が、標準報酬月額決定の3つの方法でした。
社会保険料は賞与にもかかってきますが、賞与の場合は標準報酬月額ではなく、「標準賞与額」というものを使って、社会保険料額を計算します。
賞与支給時の社会保険料
賞与が支給されたときの社会保険料は、「標準賞与額」で保険料を計算します。
標準賞与額は標準報酬月額のようなグループ分けはありません。
賞与総額(税金等を引く前)の1千円未満の端数を切り捨てた金額が、標準賞与額となります。
標準賞与額は、「555,000円」となります。
この標準賞与額に、健康保険、介護保険、厚生年金保険それぞれの保険料率をかけて、保険料額を算定します。
なお、標準賞与額には上限が設けられています。
1.健康保険(介護保険)は、1年間(毎年4月1日~翌年3月31日)の累計が573万円
2.厚生年金保険は、1回の支給につき150万円
1.健康保険(介護保険)の上限の例
2回目の標準賞与は273万円として社会保険料を計算します。
2.厚生年金保険の上限の例
標準賞与は150万円として社会保険料を計算します。
まとめ
標準報酬月額は、社会保険料の計算を簡便にするために用いられる「給与額に応じたグループ」です。
標準報酬月額によって、個々の従業員の社会保険料額が決まってきますので、届け出にミスや漏れがないように注意する必要があります。
特に随時改定(月額変更)に気づかず、届け出をおこなっていないケースをよく見かます。年金事務所の調査で届け出漏れが判明した場合は、過去にさかのぼって社会保険料の支払いが必要になることもあるので、十分に気をつけてください。