時間外手当は、一般的に残業代と呼ばれていますが、法律上は時間外労働割増賃金と言います。法定の割増賃金には、時間外労働割増賃金のほか、休日労働割増賃金、深夜労働割増賃金があります。
この記事では、それぞれの割増率や計算方法を詳しく解説していくとともに、割増賃金に関するよくある間違いについてもご紹介していきます。
時間外手当(割増賃金)の計算式
式で表すとこれだけですが、1項目ずつの奥が深いというか、説明をすべきことがありますので、1項目ごとにご説明していきます。
割増賃金を計算するときの【1時間あたりの給与額】とは?
1時間あたりの給与額の考え方
時給制 | 時給額 |
日給制 | 日給÷1日の所定労働時間数 |
月給制 | 月給÷1ヶ月の所定労働時間数 ※1ヶ月の所定労働時間数が月によって違う場合は、1ヶ月平均所定労働時間数 (1ヶ月平均所定労働時間数=年間の総労働時間数÷12ヶ月) |
(具体例) (大阪労働局HPより) |
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出来高制 | 出来高の額÷その月の総労働時間数(時間外労働なども含む) |
1時間あたりの給与額の計算から除く手当
1時間あたりの給与額の計算、つまり、割増賃金の計算から除くことができる手当は、法律で決まっています。
・家族手当
・通勤手当
・別居手当
・子女教育手当
・住宅手当
・臨時に支払われる賃金(結婚祝金、弔慰金など)
・1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
これら以外に支給されている手当、例えば役職手当、皆勤手当、職務手当、資格手当などはすべて割増賃金計算の基礎とする必要があります。
家族手当 | 家族の人数に関係なく一律に支給する場合 |
通勤手当 | 通勤距離に関係なく一律に支給する場合 |
住宅手当 | 住宅の形態ごとに一律に定額で支給する場合 ※例:賃貸は1万円、持ち家は5千円 |
これらの支給の仕方をしている場合は、割増賃金計算の基礎から除くことはできません。
割増賃金の計算に必要な時間外労働と休日労働の知識
ひと言で“時間外労働”といっても、時間外労働には2種類あります。
また、休日労働にも2種類ありますので、いまからその説明をしてきます。
法定時間外労働と所定時間外労働の違い
時間外労働には、「法定時間外労働」と「所定時間外労働」があります。
法定時間外労働とは
法律で定められた労働時間の限度、1日8時間、1週40時間を超えて働くことです。
例えば1日9時間働いた場合は、1時間が法定時間外労働です。
※変形労働時間制などの場合は、必ずしも1日8時間、1週40時間とは限りません。
変形労働時間制については、こちらの記事を参考にしてください。
「変形労働時間制とはどのようなものか?種類と特徴をわかりやすく解説」
所定時間外労働とは
例えば、就業規則などで1日7時間30分、1週37時間30分と所定労働時間が定められている場合に、その時間を超えて働くことです。
この場合に、1日8時間働いたとすると、30分が所定時間外労働となります。
1日9時間働いた場合は、1時間30分は所定時間外労働となり、このうち1時間(8時間~9時間)は、所定時間外労働であり、法定時間外労働でもあります。
法定時間外労働と所定時間外労働(1日8時間まで)との違いは、割増賃金の支払いが必要かどうかということです。
法律で割増賃金は、法定労働時間(1日8時間)を超えた場合に支払いが必要となっています。
つまり、所定時間外労働をしたとしても、労働時間が8時間以内であれば、割増賃金の支払いは不要ということになります。
ただし、注意しないといけないのは、月給制(日給月給制含む)で、所定労働時間分の給与を支払っている場合は、所定時間外労働分の給与は支払っていないので、所定時間外労働分の給与は支払う必要があります。
割増分は支払わなくてもよいものの、時給分は支払う必要があるということです。
これについては、このあとの割増率のところで具体的な例をあげて、再度ご説明します。
法定休日労働と所定休日労働
休日労働には、法定休日労働と所定休日労働があります。
法定休日とは
労働基準法第35条によって、従業員に対して、最低限与えることが義務づけられている休日のことです。
会社は、従業員に対して、原則週1回、または4週間に4回以上の休日を与えなければなりません。
休日の日数は、この基準を下回ることはできません。
この法定休日に従業員が働くことを法定休日労働といいます。
所定休日とは
所定休日とは、法定休日以外の休日のことです。
例えば、週休2日制で土日が休日なのであれば、法定休日は1週間に1日ですから、もう1日は法定休日ではない所定休日ということになります。
特にどちらかの曜日を法定休日と定めないといけないことはありませんし、土曜日か日曜日のどちらかを、法定休日として定めるといったことも可能です。
法定休日以外の所定休日労働は、実は休日労働ではなく、時間外労働になります。
ですので、法定休日労働と所定休日労働では、休日手当の割増率が変わってきます。
このことを踏まえて割増賃金の種類と割増率をみていきます。
割増賃金の割増率と具体例
中小企業は2023年4月から60時間超の部分は50%(大企業は施行済み)
・休日労働 35%
・深夜労働 25%
1日の所定労働時間が8時間の場合
実際の労働時間:10時間
時給:1,000円
この場合の時間外割増賃金は?
10時間-8時間=2時間が時間外労働時間
1,000円×2時間(時給分)+1,000円×25%×2時間(割増賃金分)=2,500円
1日の所定労働時間が1日7時間30分の場合
実際の労働時間:10時間
時給:1,000円
この場合の時間外割増賃金は?
10時間-7時間30分=2時間30分が時間外労働時間
このうち8時間までの30分は所定時間外労働なので、割増賃金は不要です。
ただし、所定時間外労働のところでお伝えしたように、所定時間外に労働した時給分の支払いは必要になります。
1,000円(時給分)×0.5時間=500円(2)法定時間外労働分
1,000円×2時間(時給分)+1,000円×25%×2時間(割増賃金分)=2,500円
(1)+(2)=3,000円となります。
休日労働の場合
法定休日に労働した場合に支払われる割増賃金
時間外労働割増賃金(25%)の計算となります。
深夜労働の場合
夜10時から翌朝5時までの時間に勤務した場合に支払いが必要なのが、深夜労働割増賃金です。
この深夜労働割増賃金で、給与を払いすぎている企業さんをたまに見かけます。
従業員にとってみれば良いことなのですが・・・。
具体的な例で見ていきます。
仮に給与を月給20万円(時給換算1,000円)だとします。
この場合、あくまでも15時~23時の給与は月給に含まれています。
この時間は、所定の勤務時間なので。
ということは、法律上支払いが必要な割増賃金は、
です。
しかし、実際には
を支払っている企業さんがあります。
繰り返しになりますが、法律を上回る額を支払っているので何ら問題はありませんが、知らずにやっているのと、理解したうえでやっているのでは、大きな違いがあります。
出来高制の場合
時間外労働時間:10時間
出来高の金額 :18,000円
100円×0.25(割増率)×10時間(時間外労働時間数)=250円
250円が出来高にかかる割増賃金(0.25分)となります。
※時間給分(1の分)はすでに18,000円で支払い済み
時間外手当に関してよくあるご相談
固定残業代を支給しているんだけど?
「うちは固定残業代を払っているから、残業代の計算は必要ないですよね?」
固定残業代を支払っていても、残業代の計算は必要ですし、実際の残業代の金額が、固定残業代の金額を上回った場合は、差額の支払いが必要です。
また、固定残業代が適法なものとして認められるためには、就業規則への規定など、様々な導入・運用の制約があります。
固定残業代についての詳細は、こちらの記事を参考にしてください。
「固定残業代が違法にならないための計算や、固定残業代計算シートをご紹介」
年俸制にしようと思っているんだけど?
「年俸制にしたら、残業代は必要ないよね?」
年俸制であっても、時間外労働などに対して割増賃金の支払いは必要です。
まとめ
時間外手当などの割増賃金の計算が未だに不適切な企業さんがたくさんありますが、法改正によって、残業代請求の時効が2年から3年に延長されています。
最悪の場合は3年分の残業代を支払う必要が出てくるので要注意です。