この記事では、中小企業の経営者や担当者の皆さんが、就業規則のテンプレートを活用しつつ、自社の実態に合わせた適切な就業規則を作成していくうえでのポイントを説明します。
ただ単にテンプレートをそのまま活用して就業規則を作成すると、のちのち思わぬ落とし穴にハマってしまうことがあるので、この記事でポイントをチェックしてください。
中小企業の就業規則テンプレートの活用
中小企業における就業規則の役割
中小企業において、就業規則は非常に重要な役割を果たします。
なぜなら、就業規則は従業員との関係を明確にし、トラブルを未然に防ぐための基盤となるからです。特に中小企業では、人員が限られているため、一人一人の役割や責任が大きく、明確なルールが必要となります。
就業規則をとおして、従業員の勤務時間、休日、給与などの基本的な労働条件や、従業員の権利と義務(権利だけでなく義務もあるということを認識してもらうことが重要)を明文化することができ、公平な労働環境の実現に寄与します。
私個人の意見としては、リスク回避や労使トラブルの防止だけを目的とした就業規則の作成はおすすめしていません。なぜなら、就業規則の真の目的は、従業員との良好な関係を築くことにあるからです。
就業規則テンプレートを使用するメリットとデメリット
就業規則テンプレートを使用するメリット
就業規則をゼロから作成するのは、専門的な知識や経験が必要とされるため、中小企業にとっては大きな負担となることが多いです。
そこで、テンプレートを使用することが有効な手段となります。テンプレートを使用することで、必要な項目や内容が網羅されており、手間を抑えて自社に合わせた就業規則を作成することができます。
また、法的な問題を回避するためのポイントもあらかじめ盛り込まれているため、安心して利用することができます。
就業規則テンプレートを使用するデメリット
一方、テンプレートをそのまま使用すると、自社の特性や従業員のニーズに合わない部分が出てくる可能性があります。
また、テンプレートは一般的な内容が中心となっているため、特定の業界や事業内容に特化した内容を反映させるのが難しい場合があります。
そのため、テンプレートを使用する際は、自社の実情に合わせてカスタマイズすることが必要です。
中小企業が就業規則作成時に注意すべき法律との関係
労働基準法に基づくポイント
労働基準法は、労働者の権利と義務を定める基本的な法律です。
就業規則を作成する際には、この法律の内容をしっかりと理解し、遵守することが必要です。
具体的には、労働時間、休憩時間、休日、給与の計算方法、残業手当などの基本的な労働条件を明記することが求められます。
就業規則に必ず記載しなくてはいけない事項:絶対的記載時事項についてはこちらの記事をご参照ください。
労働時間の記載には注意が必要です。
例えば、テンプレートに書いてある変形労働時間制を自社の実態に合わないまま規定しているケースがあります。この場合、変形労働時間制は無効となる可能性があるため、十分な注意が必要です。
労働契約法との関連性
労働契約法は、労働者と使用者の間の労働契約に関する基本的なルールを定める法律です。この法律と就業規則との関連性を理解することは、トラブルを防ぐために非常に重要です。
具体的には、労働契約で定められた内容と就業規則で定められた内容が矛盾してはならないという点が挙げられます。
仮に労働者個人との労働契約の内容が就業規則で定められた内容を下回った場合は、その下回った部分は無効となり、就業規則の内容が労働契約の内容となります。
逆に労働契約の内容が上回っている場合は、労働契約の内容が優先されます。
また、労働契約法に基づく労働契約の更新や変更に関するルールも、就業規則の中で明記することが推奨されています。
実際は退職金がない会社の就業規則に退職金制度が記載されており、従業員がその規定を根拠に裁判を起こしたところ、会社に退職金の支払いが命じられたことがあります。
労働諸法令と就業規則の適合性確認
労働諸法令の整合性の確認
就業規則を作成・改定する際、労働基準法をはじめとした労働諸法令との整合性を確認することは非常に重要です。
法律は最低限の労働条件を定めており、これを下回る内容を就業規則に記載することはできません。
厳密に申し上げると、記載はできますが、法律で定められた最低賃金や休日の取得日数を下回る内容を就業規則に記載すると、その部分は無効となり、無効となった部分は、法律で定められた基準が就業規則の内容となります。
そのため、就業規則の内容が労働基準法などと矛盾していないかを定期的にチェックし、必要に応じて修正することが求められます。
就業規則の実際の作成手順
事前の情報収集
就業規則を作成する前に、まずは現在の労働環境や従業員のニーズを正確に把握することが重要です。
従業員アンケートや面談を通じて、実際の労働状況や要望を収集しましょう。これにより、より実態に合った就業規則を作成することができます。
テンプレートの選定とカスタマイズ
適切な就業規則のテンプレートを選定することで、効率的に規則を作成することができます。
ただし、テンプレートはあくまで参考の一つであり、自社の実態に合わせてカスタマイズすることが必要です。
特に、労働時間や休日、給与計算などの基本的な項目は、自社の実情に合わせて詳細に記載しましょう。
法的なチェック
就業規則が労働基準法やその他の関連法規に適合しているかを確認することは、非常に重要です。
社会保険労務士などの専門家に相談したり、労働基準監督署や労働局といった行政機関にも相談することが可能です。
専門家は有料となるケースが多いですが、公的機関は無料で法的な観点からのアドバイスや指導を行ってくれるため、安心して利用することができます。これにより、後々のトラブルを防ぐことができます。
就業規則の適切な運用方法
定期的な見直し
就業規則は一度作成したら終わりではありません。
労働環境や法律の変更、企業の成長や事業内容の変動など、様々な要因により、就業規則も時代とともに変わっていく必要があります。
最低でも年に1回は、就業規則の内容を見直し、必要に応じて更新することが推奨されています。
従業員への周知
就業規則の適切な運用のためには、従業員全員がその内容を正確に理解し、遵守することが必要です。
周知の方法としては、新入社員のオリエンテーション、定期的な研修、掲示板や社内ネットワークを利用した情報共有などが考えられます。
また、就業規則の変更や更新があった場合は、変更内容を明確に伝え、必要に応じて説明会を開催することも効果的です。
なお、就業規則の周知については、こちらの記事を参考にしてください。
トラブル時の対応
もし就業規則に関するトラブルが発生した場合、迅速かつ適切に対応することが求められます。
トラブルの原因や背景をしっかりと分析し、再発防止策を講じることが重要です。また、外部の専門家や公的機関との連携も考慮し、適切な対応策を検討しましょう。
まとめ
中小企業における就業規則の重要性は高まっています。
適切な就業規則を持つことで、労使トラブルの予防や企業の信頼性向上につながります。
しかし、テンプレートをそのまま利用するだけでは十分ではなく、自社の実態に合わせたカスタマイズが必要です。また、労働基準法との整合性も確保する必要があります。
定期的な見直しや従業員への周知活動も欠かせません。適切な運用と更新を心掛けることで、企業としての健全な成長をサポートする強力なツールとして就業規則を活用しましょう。