休職制度のお話をしていると必ず話題になるのが、
「休職期間中に給料は支給しないといけないのか?」
「社会保険料はどうなるのか?」
「休職期間の長さはどうすればよいのか?」
ということです。
休職期間中に給料を支給するかしないかは、会社の自由です。
一方で、休職期間中であっても、社会保険料は通常どおり支払わなければなりません。
休職制度をもうける場合は、給与や社会保険料の取り扱いについても規定しておく方が良いですし、それに合わせて、休職期間の長さ、そして休職制度全体の規定についても一緒にご紹介していきます。
休職制度とは?
休職制度とは、従業員が主に業務外の病気やケガで仕事ができない状態になってしまったときに、雇用関係を維持したまま一定期間勤務を免除して、治療に専念してもらう制度です。
通常、業務外の病気やケガで仕事ができない場合は、普通解雇の対象となりますが、過去の裁判例などから、従業員を業務外の病気やケガで解雇する場合は、ある程度の期間、その回復を待つ必要があります。
そこで会社としては、休職制度をもうけることで、解雇を猶予することになります。
休職制度は従業員にとってみると、病気やケガをしても、すぐに会社を辞めさせることはないという安心感につながりますので、福利厚生としての面も持ち合わせています。
就業規則に休職制度を定めるデメリット
いきなりですが、休職制度を就業規則に定めることについては、デメリットが存在しますので、先にそのことをお伝えしておきます。
・休職期間中であっても社会保険料がかかるため、本人も会社も社会保険料を負担することになる
・働くことができない従業員をすぐに解雇できないので、新たな採用をすることができず、他の従業員に負荷がかかる
・回復が見込めない病気であっても、休職制度にのっとって休職を命じなければいけない可能性がある。
このようなデメリットがある一方で、休職制度を就業規則に規定するメリットもあります。
就業規則に休職制度を定めるメリット
たまに、「うちみたいな小さな会社(従業員数10人程度)でも、休職制度はあった方がいいんですか?」というご質問を受けることがあります。
これは個々の会社によって異なりますが、休業制度をもうけられるのであれば、もうけた方が良いというのが、私の考えです。
それは、休職制度には以下のメリットがあるからです。
休職制度を定めるメリット
・仮に退職をすることになっても、すぐに辞めさせられるよりも、会社も回復を待ってくれたという方が、円満な退職につながりやすい
・新規採用時に応募者に安心感を与えられる(従業員に優しい会社という印象を与えられる)
・在籍中の従業員の安心感につながる
・仮に休職制度がなかったとしても、すぐに解雇の手続きをとることは難しいので、制度化しておいた方が、第三者(裁判官など)に対しても印象が良い
これらの理由から、休職制度を就業規則に規定しておくほうが良いのですが、小さな会社が休職制度を定めるにあたって注意すべきことがあります。
特に、ひな型就業規則で、あらかじめ休職期間が記載されているものを使う場合は、つぎの点をよく確認してください。
就業規則に休業制度を定める際の注意点
休職の手続きについて
休職は会社が命じるものです。従業員からの申請によって、休職をさせるものではありません。
たまに、従業員からの「申請」によって休職を認めるという規定になっていることがありますが、従業員の判断で休職を申請できるというのは、労務管理のうえで、あまり望ましくはないです。
休職理由について
一般的に規定されることが多い休職の理由
・自己都合休職:ボランティアなど、自分の都合で会社を休むこと
・留学休職:留学のために休むこと
・公職就任休職:議員になるなど公職への就任のため休むこと
・起訴休職:起訴された場合に一定期間家で待機すること
・組合専従休職:労働組合の役員に専念するため
このようにさまざまな休職理由がありますが、小さな会社は傷病休職を2パターンに分けることと、包括的な規定をしておけばよいのでは?というのが個人的な考えです。
休職理由の具体的な規定例:
第○条(休職)
会社は、従業員が次の各号の1つに該当するときは、休職を命ずることがある。なお、第1号、第2号および第3号の休職事由が業務外の傷病を原因とする場合には、その傷病が休職期間中の療養で治癒する蓋然性が高いものに限る。
(1)業務外の傷病により継続、断続を問わず30日以上欠勤したとき
(2)精神または身体上の疾患により労務提供が不完全なとき
(3)前各号のほか、特別の事情があって、会社が休職をさせることを必要と認めたとき
「治癒する蓋然性が高いもの」としているのは、休職を命じるのは、傷病が治る可能性がある程度高い場合だけを対象とするためです。
(1)たまに連続30日以上となっている就業規則を見ることがありますが、うつ病などの場合、調子の良い日は出勤できるので、1日でも出勤するとゼロからのスタートになってしまいますので、このような規定をオススメしています。
(2)精神疾患を想定しています。本人は休みたくないと出勤してきても、あきらかに注意力が散漫になっているなど、通常業務を行える状態でないと判断した場合に休業を命じられるようになっている規定です。
休職期間の設定(休職期間の長さ)に関する規定
休職期間の設定については、注意していただきたいことが2つあります。
例えば、ひな形就業規則で、休職期間が1年6ヶ月という記載を見ることがあります。これは、傷病手当金が最長1年6ヶ月間支給されることにもとづいての規定だと考えられます。
しかし、先ほど休職制度のデメリットでお伝えしたように、休職期間中も社会保険料の負担は発生しますし、他の従業員への負担も考慮しなくてはなりません。
小さな会社で、1年半も回復を待てるという会社は少ないはずです。
就業規則の作成をしていると、「ほかの会社と同じくらいにしておいて。」とおっしゃる経営者の方がいらっしゃいますが、当然、個々の会社によって状況が違うので、安易に他社の休職期間に合わせてしまうのはリスクがあります。
業務量や人員配置、キャッシュフローの観点などから、きちんと自社の状況を踏まえて、休職期間を決める必要があります。
他社の休職期間は、参考程度にしましょう。
休職期間の具体的な規定例:
第○条(休職期間)
休職期間は次のとおりとする。
(1)前条1項、1号・2号の場合 2ヶ月
(2)前条1項、3号の場合 その必要な範囲で、会社の認める期間
ここまで、休職理由と休職期間の規定例をお伝えしてきました。以下の項目は絶対に規定すべきことではありまえせんが、必要に応じて規定することも検討してみてください。
休職期間中は、療養に専念すること
休職期間期間はケガや病気を治すための期間だと認識してもらうための規定です。
休職期間中に、旅行にでかけた様子をSNSにアップするなどの行為が問題になった事例もあります。
休職中であっても、会社の従業員としての地位を有しているため、会社の規則・命令等は遵守すること。
出社をしないからといって、会社の規則や命令を守らなくてよいわけではありません。あらためて規定することではないかもしれませんが、念のために規定しておいても良いかもしれません。
会社は、休職中の従業員に対し、会社が指定する医師の受診を命じることができる。従業員は正当な理由がない限り、これを拒むことはできない。
特に精神疾患の場合をそうしてしています。、主治医の診断は、従業員よりになる傾向があるので、客観的に別の医師に診断してもらえるように、この規定を入れます。
休職中の従業員は、自己の傷病等について、医師の診断書を添えて、原則として1ヶ月に1回以上報告すること。ただし、会社が認めた場合は省略することができる。
状況を報告してもらうことで、今後の対応の検討材料とします。
休職期間中の給料や社会保険料の取り扱いに関する規定例
冒頭でお伝えしたとおり、休職期間に給料を支給するかどうかは、会社の自由です。一方で、社会保険料は通常どうり掛かってきます。
休職期間中の給料、社会保険料の取り扱いの規定例
1 休職期間中の給与は、無給とする。
2 休職期間中の社会保険料の個人負担分と住民税に関して、会社は従業員に対し、あらかじめ請求書を送付する。従業員は当該請求書に記載された保険料等を指定期限までに会社に支払わなければならない。
3 休職期間は、原則として勤続年数に算入しない。
休職期間中は無給とする会社が多いですが、病気やケガが原因での休職の場合、健康保険に加入している従業員には、健康保険から傷病手当金が支給されます。
傷病手当金の受給要件などについては、こちらの記事を参考にしてください。
「傷病手当金申請書の書き方は?退職後やインフルエンザに使える?疑問にお答えします」
復職に関する規定例
休職制度は、傷病の回復(治癒)を待つためのものですから、当然復職時のことを想定して置かなければなりません。
今からご紹介する規定例は、あくまでもオーソドックスなものですので、自社で内容を検討のうえ、規定を行ってください。
復職に関する規定例
1 私傷病等で休職した社員の復職にあたっては、主治医、および、会社が指定した医療機関で受診のうえ、診断書の提出を命じる。
その結果を基に復職の可否、および復職時の業務軽減措置等の要否・内容について決定するものとする。
正当な理由なく、この受診および診断書の提出を拒否する場合には、復職は認められない。2 復職の際には、原則として休職前の職務に就かせることとする。
ただし、やむを得ない事情のある場合には、休職前の職務と異なる職務に配置することがある。異なる職務に配置された場合の業務内容、労働時間、賃金等の労働条件は、社員との協議のうえで個別に設定するものとする。
復職の取り消しに関する規定
従業員が復職後6カ月以内に同一ないし類似の事由により欠勤ないし通常の労務提供をできない状況に至ったときは、復職を取り消し、直ちに休職させる。
2 前項の場合の休職期間は、復職前の休職期間の残期間とする。ただし、残日数が1カ月に満たない場合は、1カ月とする。
主に精神疾患の場合を想定しています。精神疾患の場合は、いったん治ったと思っても、短期間で再発する可能性もあります。
そこで、復職後6ヶ月以内に再発(類似の病気を含む)した場合は、新たな休職とはせずに、復職を取り消し、直前の休職が継続するという規定になっています。
復職できないときはどうする?
休職期間が満了しても、復職できない場合はどうすれば良いのでしょうか?
この場合、就業規則の規定としては、2つのパターンを見ることが多いです。
1つは、「普通解雇とする。」、もう1つは、「当然退職とする。」です。
普通解雇にすると、解雇予告が必要であったり、一定期間助成金が受給できないなどのデリットがあるので、当然退職として扱うほうが良いでしょう。
当然退職の規定例
休職期間満了までに休職事由が消滅しない場合は、休職期間の満了の日をもって当然退職とする。
まとめ
休職制度に関する具体的な規定をあげながら、ご説明をしてきましたが、この記事でご紹介できたのは、主だった規定です。休職制度そのものが、会社の任意規定ですので、個々の会社によって、細かな規定も存在します。
休職事由や休職期間を含め、自社にとってより良い休職制度とはどのようなものかを、慎重に検討してから、就業規則に規定して、制度を導入してください。