企業の業績が悪化し、徐々には回復傾向の企業が増えてはいるものの、大手企業はじめ、多くの企業で、早期退職や希望退職による人員削減が行われています。
そんななかで、就職予定だった企業から、内定を取り消されるというケースも出てきています。
結論から言うと、内定の取り消しは、簡単に認められるものではなく、過去には裁判で損害賠償が命じられたケースもたくさんあります。
そこでこの記事では、内定の取り消しが違法と判断される基準や、過去の損害賠償の金額、内定の取り消しをされた場合に行なうことなどについて、お伝えしていきます。
内定の取り消しは違法か?
内定の取り消しすべてが違法ということではありませんが、つぎの基準を満たさない内定取り消しは違法ということになります。
その基準とは、内定取り消しの理由が、
「客観的に合理的、かつ、社会通念上相当と認められるもの」
であることです。
ものすごくわかりにくい・・・ですよね。
内定の取り消しについての最高裁の判例で、このような判断基準が示されているんです。
噛み砕いて表現するのなら、世間のほとんどの人が、内定の取り消し理由を聞いて、「そんな理由があるなら、取り消しても仕方ないよね。」と判断するかどうかという感じです。
これは私の個人的なイメージですが、裁判官の判断は、一般的に我々がいだく基準よりも、より高い基準があるのではないかと思います。
つまり、我々が「それは仕方ないよね。」と思っても、裁判官は「そんな理由で内定を取り消したらダメでしょ。」という判断をくだす可能性が高いということです。
ですので、内定の取り消しが合法的と判断されるのはかなり難易度が高いと言えます。
では、どのようなケースであれば、内定の取り消しを「仕方がない」と認めているのでしょうか?
内定の取り消しが認められるケース
健康状態を損なった(悪化した)ことで、働ける状態でなくなった
内定が出る前や出た後の健康診断では、働くことに支障はないと判断されていたものの、入社日までの間に、病気やケガによって、健康状態が働ける状態でなくなってしまった場合は、内定の取り消しが認められます。
ウソが判明した、犯罪を犯した
履歴書や職務経歴書の経歴に、重大な詐称があった、刑事事件などの犯罪行為を起こしたなど、すでに社員であったとしても解雇されても仕方のないような事実が発覚した場合には、内容の取り消しが認められます。
卒業ができなかった
新卒採用の場合は、学校を卒業することが前提で内定が出ているので、成績不良などで学校が卒業できなくなった場合は、内定の取り消しが認められます。
資格が取得できなかった
入社日までに、仕事をするうえで必要な資格を取得することを条件として、内定が出ていた場合、その資格を取得できなかったときは、内定の取り消しが認められます。
会社の経営状況が悪化した
基本的に、経営状況の悪化による内定の取り消しはハードルが高いですが、在職中の正社員を整理解雇しなければならないほど、会社の経営が危機的な状況であれば、内定の取り消しが認められます。
ここまでは、内定の取り消しが認められるケースをお伝えしましたが、先にお伝えしたように、内定の取り消しは、簡単には認められるものではありません。
ですので、企業が内定の取り消しを行ったことが、裁判によってその内定取り消しが無効だと判断され、損害賠償(慰謝料の支払い含む)を命じられているケースが数多くあります。
内定の取り消しによる損害賠償請求
新卒者の場合
1.内定者の印象が陰うつ・陰気であるという理由で、内定を取り消し。
→内定の取り消しは無効として、100万円の慰謝料の支払いが命じられました。
このケースでは、内定者が内定を取り消された後、別の会社に就職していない状況も考慮されています。
2.内定者が本採用前の事前研修を欠席したことにより、試用期間の延長か、中途採用試験を受け直すかの選択を迫った。(実質的な内定の取り消し)
→内定の取り消しは無効として、50万円の慰謝料の支払いが命じられました。
中途入社の場合
1.内定通知後に、内定者に関する「悪いうわさ」を聞いたとして、内定を取り消し。
→内定の取り消しは無効として、慰謝料100万円と、給与の2ヶ月半分108万円の支払いが命じられました。
この裁判では、「悪いうわさ」の真偽について、試用期間内で見極めるべきだという見解が示されています。
2.入社2週間前に、業績悪化を理由に内定を取り消し。
この裁判では、業績悪化によって、内定の取り消しを行ったこと自体は仕方ないと認めていますが、入社前2週間の時点で入社辞退を求めて、内定を取り消したことは信義則に反するとしています。
→内容の取り消しは無効として、1年分の給与支払いの仮処分が認められました。
ここでは、内定の取り消しが無効とされた場合についてお伝えしてきましたが、では、実際に内定が取り消された場合は、どのように対処すればよいのでしょうか?
内定取り消しに対処するためには証拠を集める
証拠の例:
・内定を取り消された会社から内定通知を受けたことにより、他社の内定を辞退したメール
・内定を取り消された後に行った就職活動の記録や就職活動に関する資料
・内定を取り消された会社に、取り消し理由の説明を求めたときの対応の様子
・内定の取り消しが原因で精神疾患などを発症した場合は、医師の診断書
このような証拠を集めることで、内定の取り消しが不当だという証明なりますし、また、損害賠償(慰謝料含む)の金額が増える可能性があります。
最終的には弁護士に相談する
会社が内定を取り消す場合には、なんらかの補償を行なうことで、内定取り消への同意を求められることがあります。
もちろん、その補償内容に納得ができるのであれば、同意をしてもよいのですが、そうではない場合に、「とりあえず」と思って同意をしてしまうと、その後、内定の取り消し無効を訴えることが難しくなります。
内定の取り消しに納得できなかったり、不満がある場合は、弁護士に相談をして、その後の対応をしていきましょう。
まとめ
内定の取り消しにあった場合は、証拠をしっかりと保存するようにしましょう。
そのうえで、ご自身の今後の就職活動の状況などを踏まえながら、内定の取り消し無効の訴えを起こすのかどうかを判断してください。