裁量労働制にも残業はある?メリットやデメリットなどを簡単に説明

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裁量労働制とは 労働法

この記事は、
「裁量労働制ってなに?」
「うちの会社でも導入できるの?」
といった裁量労働制の基本的なことを知りたいという方だけでなく、

「うちの会社にはデザイナーが在籍していて、仕事の進め方を本人にまかせているが、通常の労働時間管理では残業が増えてしまっているので、裁量労働制を導入したいがどうなんだろう?」といった具体的なお悩みをお持ちの方にも参考になる内容となっています。

なお、裁量労働制には、企画業務型裁量労働制専門業務型裁量労働制の二種類がありますが、小さな会社の場合は、専門業務型裁量労働制のみ導入の可能性があると考えてほぼ間違いありません。

ですので、この記事では、専門業務型裁量労働制について、制度の詳細や導入することのメリット・デメリット、実際の導入手順をお伝えしていきます。

裁量労働制とは?(裁量労働制の目的)

業務の性質上、その業務の進め方やスケジュールなどを大幅に、社員の裁量にゆだねる必要がある場合に導入が可能で、労働時間は実際に働いた時間ではなく、あらかじめ定めたみなしの時間でカウントすることになります。

働く時間や進め方を会社が指示しませんので、社員自身が、仕事に集中しやすい時間帯に勤務をしたり、自由な発想で業務を行なうことができます。

専門業務型裁量労働制の概要

専門業務型裁量労働制とは

法律で定められた19の業務について、労使協定によってみなし労働時間数を定めた場合、社員が実際に労働した時間に関係なく、協定で定めた時間労働したものとみなす制度です。

ですので、労働時間が1日8時間・週40時間を超えても、残業にはなりません。
ただし、休憩時間や休日、時間外・休日労働、深夜労働に関する法律の規制は受けるので、注意が必要です。

「全部社員に任せているから、休みも休憩も会社は知らない。」は通用しません。

専門業務型裁量労働制を導入するためには、従業員の過半数を代表する者との労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。

また、就業規則にも専門業務型裁量労働制の規定が必要です。

社内に労使委員会が設置されている場合は、委員の5分の4以上の決議によって、労使協定の代わりとすることができ、労働基準監督署への届け出も免除されます。

対象となる19の業務

1.新商品・新技術の研究開発、または人文科学・自然科学の研究の業務
2.情報処理システムの分析・設計の業務
3.新聞・出版の事業における、記事の取材・編集の業務、放送番組の制作のための取材・編集の業務
4.デザイナーの業務
5.放送番組、映画等の制作の事業における、プロデューサーまたはディレクターの業務
6.コピーライターの業務
7.システムコンサルタントの業務
8.インテリアコーディネーターの業務
9.ゲーム用ソフトウェアの創作業務
10.証券アナリストの業務
11.金融工学等の知識を用いる金融商品の開発業務
12.大学での教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)
13.公認会計士の業務
14.弁護士の業務
15.建築士の業務
16.不動産鑑定士の業務
17.弁理士の業務
18.税理士の業務
19.中小企業診断士の業務
社会保険労務士の業務は入っていないんです^^;

専門業務型裁量労働制のメリット・デメリット

メリット

・みなし労働時間数に応じて給与を支払うため、人件費の変動が少なく、管理がしやすくなる

・比較的高報酬の社員の残業代が抑えられる。固定残業代制度を導入することなく、残業代込みの給与を支払っている感覚に近い。

・社員が自分で働きやすい条件を調整していくことができるので、仕事の効率が高まり、生産性アップや大きな成果が生まれる可能性があります。

・通勤ラッシュによる疲弊を軽減できる
出社時刻を自分で決められるため、通勤ラッシュを避けることができます

デメリット

・長時間労働につながるおそれがある
社員に働く時間を委ねることによって、逆に長時間労働につながってしまう可能性があります。

・社員間のコミュニケーションが不足するおそれがある
個人の裁量によって働くため、社員同士、あるいは上司とのコミュニケーションが不足してしまう可能性があります。

・導入や運用の手間がかかる
働き方を社員の裁量に委ねることから、導入や運用の要件が厳格であるため、事務的なコストが上昇する可能性があります。

専門業務型裁量労働制の導入

導入の手順:労使協定に定める事項

専門業務型裁量労働制の導入には、労使協定が必要とすでにお伝えしましたが、労使協定には、次の事項を定めなければなりません。

1.適用対象となる業務
2.労働時間として算定される時間(みなし労働時間)
3.対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、対象業務に従事する社員に具体的な指示をしないこと
4.対象業務に従事する社員の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
5.対象業務に従事する社員からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
6.協定の有効期間
7.4.と5.に関し、社員ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間および、その期間満了後3年間保存すること

1.適用対象となる業務

先ほどご紹介した、法律で定められた19の業務に該当するかどうかだけではなく、「業務の遂行の方法を大幅に社員の裁量に委ねることができる」というところまで必要です。

 

2.労働時間として算定される時間(みなし労働時間)

対象業務の遂行に必要とされる1日の労働時間数を決めます。1日以外の1週間や1ヶ月をみなし労働時間として定めることはできません

1日8時間を超えて、9時間という設定をすることも可能です。
ただしこの場合、1時間分の時間外割増賃金が発生しますので、給与計算時は注意が必要です。残業代については後ほど詳しくお伝えします。

 

3.対象業務の遂行の手段および、時間配分の決定等に関し、対象業務に従事する社員に具体的な指示をしないこと

「会社は業務の遂行の手段および、時間配分の決定等につき、具体的な指示をしないものとする。」という旨の規定が必要になります。

ただし、まったく一切の指示をしてはいけないということではなく、会社の管理上必要なことや業務上の連絡、臨時の必要がある場合などは指示も可能と考えられます。

 

4.対象業務に従事する社員の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容

労働時間の状況把握

労働時間の状況を把握するために、どの時間帯にどの程度の会社にいたのか、仕事をできる状態にあったのかを明らかにできる出退勤時刻、または入退室時刻の記録等によるものであることが望ましいとされています。

健康・福祉確保のための具体的な措置

□必要に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること

□必要に応じて、健康診断を実施すること

□年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めて、その取得を促進すること

□心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること

□必要な場合には適切な部署に配置転換をすること

□必要に応じて、産業医等による助言、指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

すべてを取り入れる必要はないので、自社で導入できそうなもので措置を講じていくことになります。

 

5.対象業務に従事する社員からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容

苦情処理措置については、その内容を具体的に明らかにすることが必要です。

・苦情の申出の窓口・担当者
・取り扱う苦情の範囲(評価制度、賃金制度などの処遇に関する制度についても含めることが望ましい)
・苦情の処理手順・方法

を明らかにすることが望ましいとされています。

 

6.協定の有効期間

協定の有効期限は、3年以内が望ましいとされています。

専門業務型裁量労働制の規定例

専門業務型裁量労働制を導入する際の、就業規則の規定例をご紹介します。

第○条(専門業務型裁量労働制)

1.専門業務型裁量労働制は、労使協定で定める対象労働者に適用する。

2.前項の場合、対象となる労働者は、労使協定で定める時間労働したものとみなす。

3.対象となる労働者の始業・終業時刻は、労使協定に定めるとおりとする。

4.対象となる労働者の休憩は、前項の始業・終業時刻の間で、合計1時間を限度に随時取得できるものとする。

5.対象となる労働者の休日は第○条で定めるところによる。

6.対象となる労働者が休日または深夜に労働する場合は、事前に所属長の許可を得なければならない。

専門業務型裁量労働制の残業代(割増賃金)

専門業務型裁量労働制であっても、時間外・深夜、休日労働をした場合の割増賃金の支給は必要となります。

この点、「残業代はいらないんでしょ。」と思っておられる経営者の方が多いので、注意が必要です。

例えば、1日9時間をみなし労働時間としている場合、9時間分の給与は月給に含まれていると考えます。しかし、1時間分の時間外割増賃金は月給には含まれていません

ですので、別途割増賃金の支給が必要になります。

具体例:

ある従業員の月給を時給換算すると、1,000円だとします。
1日9時間をみなし労働時間とします。

この場合、通常であれば、1時間分の時間外手当(残業代)は、1,000円と割増賃金250円(1,000円の25%)で、1,250円となります。

しかし、1時間の時給1,000円は月給に含まれているので、時間外割増賃金の250円のみを支給すればよいことになります。

仮に月22日出勤した場合は、250円×22日=5,500円ですので、月給+5,500円が支給する給与となります。

まとめ

小さな会社でも、対象となる19の業務に従事している従業員がいれば、専門業務型裁量労働制を導入することは十分に可能です。

ただし、導入と運用を厳格に行わなければ、いくら就業規則に規定があったとしても、裁量労働制は無効となってしまいます。

私の経験上、よくあるのが、労使協定が締結されていない、または、労使協定の有効期限が切れているということです。労使協定の存在を忘れがちになるので、注意をしてください。