就業規則は作っただけでは効力のない、ただの紙切れになる!?

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就業規則の効力 労働法

これから就業規則を作りたいという経営者の方や、すでに就業規則を作っている経営者の方とお話をすると、就業規則を作ることが、労務管理において大切だと感じられていたり、労務リスクを回避するための方法と思われているなあということがよくあります。

「就業規則を作っておいたら、トラブルがあっても対応できる。」
「うちの就業規則は専門家に作ってもらったから大丈夫。」
「助成金に必要だったから、ちゃんと就業規則はあるよ。」
「うちの就業規則はアメとムチを使い分けて、いい就業規則なんだよ。」

このようにおっしゃる経営者の方(はじめて就業規則を作る方は除く)に、

「従業員さんは就業規則の存在を認識していますか?」「就業規則に書いてあることを日々の労務管理で実施されていますか?」とお聞きすると、

「YES」と答える方の少ないこと・・・

就業規則は作っているだけでは何の役にも立ちません。ただの紙くず同然。
就業規則は作った後が8割。

では、せっかく作った就業規則を紙くずにしてしまわないためには、どのようなことに気をつけなければならないのでしょうか?

それを今からご紹介していきます。

就業規則は「周知」しなければ、効力なし!

就業規則は従業員への「周知」が必要不可欠です。

どんなに立派な就業規則が作成されていても、それが従業員に周知されていなければ、その就業規則はこの世に存在していないのと同じです。

そうなれば当然、就業規則に規定してあることは、法律で規定してあることを除いては効果がありません。

過去の裁判でも、就業規則を作っていたものの周知をしていなかったことで、就業規則の規定が無効と判断され、会社が敗訴したという事例が複数あります。

ですから、就業規則を作成したらすぐに従業員への周知を行いましょう。

周知の方法は、特定の方法があるわけではありません。従業員が就業規則を見たいときに見ることが可能な状態にあればよいということになっています。

例えば、
・就業規則を社内の全社員が使える本棚などにしまっておく
・PDFファイルなどの形式にして、メールで一斉配信、もしくは共有のフォルダなどに保存しておく。
・印刷して全社員に配布する
などの方法が用いられることが多いです。
上記のような状況にあれば、従業員が就業規則を見ているか見ていないかは問われず、見られる状態にあること=周知できている状態とされています。
ただし、実務的には、就業規則が完成した時点で従業員に説明するのが望ましいです。

就業規則を最新の法改正に合わせなければ、会社が不利益を被ることも!

注意点

仮にですが、(ほぼありえませんが)何年間も社内のルールに変更がなかったとしても、就業規則を作りっぱなしにすることはできません。

なぜなら、法改正があるからです

直近でも、令和3年1月1日から育児介護休業法が改正され、子の看護休暇と介護休暇の時間単位での取得が可能になっています。

(詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
「看護休暇・介護休暇が時間単位で取得可能に!改正点や規定例をご紹介」

法律で決められたことなので、就業規則に規定がなかったとしても適用はされますが、そのままにしておいては、会社にとって次のような不都合・不利益となる可能性があります。

・法律では決められていない社内手続きなどのルールを規定しておかなければ、業務に支障をきたすおそれがある
・一部の法律では、就業規則への規定や労使協定を締結することで、制度の対象となる従業員を限定することができますが、法改正に対応していなければ、全従業員が対象となってしまう。
・最新の法改正に就業規則が対応していないと、助成金を受給できないことがある。

このようにならないように、法改正が行われたら、就業規則やそれに関係する労使協定なども変更・アップデートしていかなければなりません。

就業規則は「運用」こそ命

就業規則は運用がポイント

ここまで、「周知」と「法改正への対応」が重要だということをお伝えしてきましたが・・・、

就業規則を従業員に周知して、常に最新の法改正に対応していたとしても、運用の仕方しだいでは、せっかくの就業規則がまったく意味のないものになってしまいます。

運用の仕方で就業規則を台無しにしてしまうケースとして、運用があいまい過ぎる場合と、厳格過ぎる場合の2パターンがあるのですが、具体的な例をあげてお伝えしていきます。

運用があいまいな例

例:1ヶ月単位の変形労働時間制を導入し、就業規則では、毎月事前に勤務シフトを配布することになっているのにもかかわらず、それを怠っている。

⇒過去の裁判では、変形労働時間制が認められず、原則の1日8時間、週40時間が適用され、超過勤務時間分の残業代の支払いが命じられた。

例:パートタイマーは有期契約と規定しているものの、契約更新の手続きをしないまま継続して勤務している。

⇒無期契約で契約更新されたとみなされるので、期間満了での退職がなくなる。また、短時間・無期契約の従業員に適用される就業規則がないため、正社員の就業規則が適用される可能性がある。

運用があいまいだと、思わぬところで会社が不利益を被ることがあります。

では、就業規則の規定どおりガチガチに運用すればいいのかというと、そうでもないのが、就業規則運用の難しいところです。

就業規則の運用が厳格過ぎる例

原則、就業規則の規定どおり運用しなければいけないのですが、一部そうではないケースが実務上はあります。

例:「あの従業員は協調性がなくて、会社の輪を乱している。就業規則に協調性がない社員は解雇できると書いてあるので解雇だ!」

⇒実際に、この従業員を就業規則に当てはめてすぐに解雇できるかといったら、物事はそうは簡単ではありません。

30日前に解雇の予告をすれば、手続き上は解雇できますが、この従業員に不当解雇だと訴えられてしまえば、従業員側によほどひどい原因がない限り、十中八九会社が負けることになります。

そうなれば、復職、もしくは慰謝料の支払い、解雇してから裁判が終わるまでの給料の支払いなどが課せられてしまうことも。

このようなことがあるので、就業規則の運用は悩ましいんです。

「就業規則は会社の憲法です!」といった謳い文句を見ることがありますが、就業規則は憲法ほど絶対的なものではありません

このことは、ぜひ覚えておいてください。
そして、憲法のような絶対的なものではないからこそ、就業規則は柔軟に変えていくべきものというのが、私の考えです。

小さな会社の就業規則はどんどん変更しよう

就業規則の変更は柔軟に

就業規則は会社の実態に合わせて変えていきましょう。

一般的には、「就業規則は簡単に変えるもの(変えられるもの)ではないので、最初にしっかりとした就業規則を作る方がいい。」と言われることが多いですが、会社の実態に合わないほうがよほどマズイです。

「就業規則は簡単に変えるものではない。」と言われるのは、法律(労働契約法)で、「労働者の同意が無ければ就業規則を労働者に不利益な方向に変更してはならない」と規定されていることが要因です。

従業員数が多い会社だともちろんそうでしょう。就業規則の変更、ましてや不利益な変更となれば、一大イベントと言っても過言ではないかもしれません。

しかし、小さな会社の場合はそうではありません。仮に多少不利益になるとしても、経営者と従業員が近い距離感なので、きちんと理由を説明すればわかってもらえることが多いです。

小さな会社であるというメリットを活かして、就業規則の規定は柔軟に変えていくことをおすすめします

まとめ

就業規則はただ単に作った!というだけでは役に立たず、「周知」「運用」「変更(更新)」が正しく行われて、初めてその効力(会社や会社に必要な従業員を守る)を発揮するツールとなります。

このことをぜひ意識してください。

そして、就業規則の規定にもとづいて日々の労務管理を行い(ただし、一部はさじ加減が必要)、法改正や社内のルールがあれば、それに合わせて就業規則をアップデートしていくことが必要です。