従業員を出向させるんだけど、労災、雇用保険、社会保険はどうなるのか?出向先で入るのか?出向元で入るのか教えて欲しい、その他に気をつけることがあったら教えて欲しいと、知り合いの税理士さんからご相談がありました。
規模の小さな会社では、そうそう従業員の出向はありませんが、個々の企業の事情によっては、新会社を作って、従業員を出向させるということを行なうこともあるので、出向時の公的保険の取り扱いや、注意すべき点をお伝えしていきます。
出向と転籍の違いとは?
出向とは
出向元の企業(自社)に在籍したまま、長期間にわたって出向先の企業(他社)の業務に従事することです。
従業員に対しての指揮命令権は、出向先企業が主体となります。
転籍とは
従業員が自社から他社へ籍を移して、その他者の業務に従事することです。
出向と転籍の大きな違いは、自社に在籍をしたままなのか、退職をするのかという点です。
細かなことを言い出すと、出向であっても実質転籍などという場合もありますが、小さな会社では、そこまで踏み込まなくてよいのではないかと考えます。
出向させるためには根拠が必要
小さな会社では、従業員を出向させる場合、会社の指示として、当たり前のように出向をさせていることが多々ありますが、実は従業員を出向させることは、業務命令の範囲に当然に含まれているわけではありません。
そこで必要になってくるのが、就業規則に出向に関しての規定をおこない、従業員の同意を包括的に得ておくことです。
小さな会社の出向規定例
第○条(出向)
1 会社は従業員に対し、業務上の必要性がある場合、他者に出向を命じることがある。
2 前項の命令を発する場合、原則として命令日の1週間前に内示する。
3 会社が出向を命じる場合、その出向先での労働条件等については、個別に定めるものとする。
4 従業員は、第1項の命令に対し、正当な理由がない限り拒否することはできない。
※この規定例は、出向元と出向先の会社の代表者が同じ場合や、配偶者など身内である場合を想定したものです。
運用可能であれば、追加した方がよい規定
・出向先として想定される子会社または関連会社を以下に明示する。
株式会社〇〇、△○合同会社・出向元復帰の際は、原則として原職に復帰するものとする。
出向の場合の給与の支払いは、出向先?出向元?
出向の場合の給与の支払い方については、法律上の決まりはありません。
出向の場合の給与の支払い方については、つぎの3つが考えられます。
2.出向元と出向先で給与を按分して支払う
3.出向元が給与を支払ったうえで、出向先が出向元に給与負担金を支払う(逆のケースもあり得る)
どの支払い方を選択するかは、個々の企業の事情によって異なります。
この点は、顧問税理士さんと相談することが多いです。
気をつけなければいけないのは、給与の支払先によって、雇用保険や社会保険の取り扱いが変わってくるということです。
出向の場合の労災、雇用保険、社会保険は?
労災保険
労災保険は、給与の支払元にかかわらず、従業員が実際に勤務をしている出向先で適用することになります。
ですので、もし出向元から給与が支払われていたとしても、労災保険に関する保険料は、出向先が負担することになります。
雇用保険
雇用保険は、出向元と出向先どちらの企業が、主な給与の支払い元となっているかが、ポイントになります。
給与を出向元と出向先で負担しあっていれば、より多くの割合を負担している企業で雇用保険が適用されます。
ですので、もし給与を出向先が全額あるいは、出向元よりも多く負担しているということになれば、雇用保険は出向先で加入することになるので、出向元での雇用保険は資格喪失の手続きが必要になります。
例外もある
出向先で雇用保険に加入することで、出向元で雇用保険に加入していた場合に比べて、いちじるしく差異が生じる場合は、例外として従業員にどちらの会社で、雇用保険に加入するかを選択させることもあり得ます。
→これについてはあまり考える必要はありません。ご紹介程度です。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)
基本的には、雇用保険と同じ扱いで、給与が出向元と出向先どちらから、支払われているかによります。
出向元で給与が支払われていれば、出向元で加入
雇用保険と異なるのは、出向元と出向先の両方から給与が支払われているケースです。
この場合は、二以上勤務として取り扱われます。
出向元と出向元どちらで、社会保険に加入するかを選択することができますが、社会保険料は支払われている給与を合算して、決定されます。
また、社会保険料を給与額に応じて按分し、それぞれの企業で納付を行ないます。
「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」を届け出ます。
まとめ
出向と転籍の違い
転籍→元の会社は退職する
出向の場合の労災保険、雇用保険、社会保険の扱い
雇用保険→主な給与の支払い元で加入
社会保険→主な給与の支払い元で加入
※上記は原則ですので、それ以外は本文で確認してください。